イジワル上司に甘く捕獲されました
「……アンタ本当に要領悪い……」

整えられた前髪をくしゃりとしながら、彼は溜め息を吐く。

回収した段ボールの置場所に悩んでいたら。

そもそも、引っ越し業者さんに後日引き取ってもらえばいいのだから、置場所に持っていく必要はなかったんじゃないかと彼に指摘され。

でもこのままでは通路の邪魔だからせめて、少しでも片付けたいと言うと。

呆れながらも玄関にあるシューズインクローゼットに片付けたら、と助言を彼にいただいて。

だけど。

玄関前に重たくてなかなか持ち上げられない荷物を積み上げてしまっていたので上手く扉を開けられず、右往左往していたら。

積み上げた荷物を部屋の中に入れてもらい。

結局段ボールだけではなく、荷物運びや片付けまでを手伝ってもらった。

その結果、要領悪い、と呆れ顔で言われてしまった。

細身の身体だけれど、やっぱり男性で。

私が抱えたり、持ち上げることができない荷物を長い腕で軽々運んでくれて。

私としては本当に助かって。

最低美形男性と名付けていた評価が格段に上がった。

たくさんの失礼な言葉を聞き流すことが出来るくらいに。

「……すみません……。
ありがとうございました……」

とりあえずお礼を伝えると。

「一人暮らし、じゃないんだろ?
相手は?」

何気なく彼に聞かれた。

「あ、妹なんですけど……。
今、仕事で東京に行っていて。
もうしばらくしたら帰ってくる予定なんです」

「ふうん」

興味なさそうに返事をする彼に、私は何かとお世話になったにもかかわらず自己紹介をしていないことを思い出す。

「あ、あの、私、橘と申します。
今日は色々とありがとうございました。
これからよろしくお願いします」

ペコリと頭を下げた。

< 28 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop