イジワル上司に甘く捕獲されました
藤井さんは最初の印象通り、とても優しい親切な先輩で。

支店を隅々まで一通り案内してくれた後、業務内容や備品の置場所、支店の決まり等も丁寧に説明してくれた。

合間に同じ支店の方々にも紹介してくださって、私の札幌支店一日目は順調な滑り出しを見せていた。

支店長も穏やかな人で、無事に朝礼での挨拶も終えて。

私は藤井さんに付いて仕事を開始していた。

「一通り挨拶や紹介も済んだし……後は……やだ、もう十二時過ぎてる!」

壁にかけられた時計を見て慌てる藤井さん。

「ごめんね、私、十二時半から来客の予定があるの。
本当は一緒にお昼ご飯をとりたかったんだけど……時間を見ていなくてごめんね。
今日は別々にお昼ご飯をとらせてもらっていい?
テナントさん専用の社員食堂で食べても大丈夫だし、お弁当とか持って来ていたら、休憩室で食べても大丈夫だから」

机に散らばった書類を片付けながら申し訳なさそうに言う藤井さん。

「いえ、大丈夫です。
食堂でいただきます。
お忙しい日にすみません」

私が言うと、藤井さんは目を見開いて。

「やだ、橘さんっ。
本当に良い子ね!
気にしないで、橘さんの指導係は私がやりたくて皆川さんにお願いしてやらせてもらったんだから。
もう可愛いわぁ」

嬉しそうに笑った。

「そうなんですか?」

「うん、ホラこの支店って、総合職、主に男性が多いんだけど……全国から転勤してこられるけど。
私や橘さんみたいなほぼ地域限定の事務職の女の子って滅多に来ないの。
だから、この支店では私が一番下だったの。
私にとって橘さんは初めての後輩。
だから嬉しくて。
皆川さんに話を聞いてからずっと来てくれる日を楽しみにしていたのよ」

だから仲良くしたいなと思っていたの、とさらに優しい笑顔を見せてくれた藤井さんに。

何だか嬉しくて私は鼻の奥がツンとして目が潤んだ。

「ちょっ……やだ、橘さん、泣かないで!」

慌てる藤井さんに私は泣き笑いのような表情を見せた。

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