イジワル上司に甘く捕獲されました
取り残された私は若干、手持無沙汰で。

とりあえず藤井さんが広げたままにしている書類等をまとめ出した。

「ああ、いいよ。
どうせ藤井のお客様が帰られたら、作業するんだよね?
藤井の未処理箱にいれておきな」

綺麗な指を伸ばして藤井さんの未処理箱を開けてくれる桔梗さん。

「あ、ありがとうございます」

……ただの軽い人かと思ったけれど、仕事に関しては真摯な態度の人なのかなあと思った時。

「お昼、まだ食べてないの?
じゃ、一緒に食堂行く?
色々話したいし」

グイッと顔を近付けて、ニッコリと素敵な笑顔で誘われた。

……明らかに楽しそうな表情で。

「……桔梗さん、そういうのがダメなんですよっ」

背後から先程姿を消したはずの藤井さんの声。

「げっ、藤井?
何でここに……」

「残念でした。
印鑑を忘れたことに気づいて引き返して来たんです!
もうっ、桔梗さん、橘さんにまとわりついてる場合じゃないんじゃないですか?
さっき、皆川さんが桔梗さんを探してましたよ!」

印鑑を引き出しから取り出しながら言う藤井さん。

「えー、マジで……。
まだ出張から戻ってませんって言っといてくれた?」

「まさか。
バッチリ帰社されていて、皆川さんの元に行かれるように伝えますって申し上げましたよ」

「何でだよ!」

憤慨する桔梗さんに藤井さんはしれっと言う。

「当たり前ですっ。
ホラ、早くその荷物と一緒に行ってください!」

視線を下にずらすと、藤井さんの机の横には小ぶりのキャリーバッグが置かれていた。

「本当、可愛げない部下だな……藤井」

ブツブツ言いながら桔梗さんは荷物を持ち上げて去っていった。




< 35 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop