イジワル上司に甘く捕獲されました
何なの、何なのっと何度も胸のなかで悪態をつきながら、自席に戻るため歩き出す。

そもそも面談の時ってドアを閉めたらダメなんじゃなかった?

しかも。

曲がりなりにも上司のくせに、襲うぞって何よ!

言われなくても誰にも言わないし、言いたくもない!

そもそも私が部下になるって知ってたから、バスで起こしてくれていたわけで。

上司が部下の面倒をみたっていうだけで。

親切な人かも、って一瞬でも思った私が馬鹿みたい。

私のことを知っていたなら言ってくれたらいいのに。

怒りが顔に出ていたのか、正面から歩いてきたご機嫌な様子の桔梗さんが一瞬、驚いた顔をして話しかけてきた。

「あれ?
美羽ちゃん?
何かあった?」

「……いえ、瀬尾さんと面談しただけですけど」

美羽ちゃん、って。

何故いきなり名前をちゃん付け……。

「潤?
あ、そっか。
美羽ちゃん、潤の部下になるんだっけ?」

小首を傾げながら楽しそうに言う桔梗さん。

「……あの、桔梗さん、美羽ちゃんって……」

半ば呆れながらも、一応指摘すると。

「あれ、美羽ちゃんじゃなかった?
名前?」

「いえ、名前は合ってますけど……」

もう、色々なことが起こりすぎて、名前くらいいいかって気分になってしまう。

「だよね?
俺、女子の名前を覚えるの得意だからね」

思いっきり魅力的な笑顔を私に見せてくれる桔梗さん。

「俺の部下になれば良かったのに。
潤、美人なんだけど誰に対しても厳しいからさ」

「……そうですね。
厳しいっていうか、嫌がらせのような……」

思わず本音が口から滑り出す。




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