イジワル上司に甘く捕獲されました
拓斗に会う前日。

定期的に行われる部長との面談で。

思いもしなかったことを言われた。

地元の大学を卒業した私は銀行に就職した。

用語や業務内容に慣れるまで大変だったけれど、入社三年目を過ぎた頃から少しずつ自分がこなす業務だけを見るのではなく周囲に目を向けることも出来るようになってきた。

今では後輩の指導を任されたりしつつ、投資信託の販売等、主に相談窓口の業務に携わっている。

そんなある日のことだった。

「最近仕事はどうだい?
やりにくいこと、悩んでいることはないかな?」

ドアを開け放した応接室で。

私の直属の部長が尋ねた。

現在四十代の片山部長は他部の部長と違い、とても朗らかで話しやすい人だ。

「いえ、特には……」

私は頭のなかで業務のことを考えて返事をする。

「橘さんは四年目だったね……もう随分店の雰囲気にも、業務にも慣れてきただろう」

手元の人事資料を見ながら部長が言う。

私は小さく頷く。

「そういうわけで橘くん、札幌支店に行かないか?」

思いがけない片山部長の言葉に私はポカン、とする。

……今。

部長、札幌支店にって……おっしゃった?

「さっぽろ?」

単純におうむ返しをした私に。

部長は深く頷いた。



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