イジワル上司に甘く捕獲されました
「……どうしてですか?」

穏やかに話を続ける片山部長に尋ねる。

「今回のプロジェクトには本部からも短期で営業担当として着任する社員もいる。
まあ、言ってみれば札幌支店に社員が増えることになる。
人が増えるとやはり、人と人との付き合い方や距離感といったなかなか一筋縄でいかないこともある。
橘さんは、いつも部の皆に分け隔てなく接することができるだろう?」

部長の意外な言葉に。

「……で、でもそういうことは誰にでも……」

少し恥ずかしくなって俯く。

「イヤイヤ、それが苦手な人もいるんだよ……私は橘さんのそういうところを素晴らしいと思っているよ」

片山部長の言葉が嬉しかった。

大勢の部下がいるなかで、毎日多忙な部長が私を見ていてくれたこと、認めていてくれたことに胸が熱くなった。

「……あの、部長。
期間はどのくらいになるのでしょうか?」

気になっていたことを尋ねた。

「そうだなぁ、それもまだハッキリとは言えないんだが……恐らく長い場合で一年半、短ければ半年から一年くらいと思う。
勿論、今後の進捗状況によっては臨機応変に職務内容が変更される可能性はある。
だが、札幌支店での業務終了後は一旦必ず今のこの支店に戻ることになるよ。
それから一年以内に正式にこの支店に着任するか転勤するか、にはなるが……きちんと橘さんの希望もきくつもりでいるから」

きちんとまだ決定していないから何もかも曖昧ですまないね、と申し訳なさそうに片山部長は言った。

とにかくこのプロジェクトは異例な扱いが多いそうだ。

「……部長、しばらく考える時間をいただけますか?」

「勿論だよ。
……では一週間後までに返事をもらえるかな?」

「はい……」

私はそう言って応接室を退室した。

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