イジワル上司に甘く捕獲されました
真央が出発してから季節は確実に変わって。

暑かった筈の毎日は涼しいを通り越して寒さを感じる程になってきた。

冷え込みが厳しくなった金曜日の夜。

会社から帰宅して、暫くは床暖房をつけていたけれど、やっぱり寒くて初めてパネルヒーターをつけようとした。

だけど。

真央から一応教えてもらってはいたけれど、イマイチ使い方がわからなくて。

説明書を読もうにも見当たらなくて。

真央に電話しようと思ったけれど、国際電話をこんなことでかけていいか躊躇して。

結局、瀬尾さんに電話してしまった。

「せ、瀬尾さんっ」

「橘?
どうした?
今、何処だ?」

私のコール音三回目であっさり出てくれて。

私の焦り声に少し硬い声の瀬尾さん。

「いえ、あの、自宅なんですけど……。
特に問題はないんですけど……」

ホッとしたような溜め息が聞こえて。

「そっか、良かった……。
……どうした?」

いつからか……何の用だ、とか今は忙しい、とか一切言わなくなった優しい声が耳から聞こえて。

その声に温かさを感じて。

胸がキュウっとなる。

「……橘?」

「あっ、すみません……あの、パネルヒーターの使い方がわからなくて。
……帰宅されたら、時間がある時でいいので、お、教えてもらえませんか?」

「パネルヒーター?
まだ使ってなかったのか?
寒くないのか?」

「えっと、床暖房を使っていたので……」

ハーッと大きな溜め息が聞こえて。

「……もっと早く聞けよ。
風邪を引いたらどうするんだ?」

呆れ声の瀬尾さん。

「今、マンションエントランスだから、今から行く」

そう言って電話を切った。


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