イジワル上司に甘く捕獲されました
「橘さん、こっちのデータも入力しておいて」

「はい」

「あっ、この支払い、起票して検印してもらってね」

十一月になり、厚手の上着を通勤に着るようになっても、支店に一歩入れば変わらない毎日の業務が待っている。

私はプロジェクトチームの仕事がメインだけれど、手が空いている時や余裕がある時は、通常業務を手伝うようにしている。

とは言え基本的には藤井さんに教えてもらったり助けてもらってばかりだけれど……。

「……もうすぐ月末だからやっぱり段々持ち込まれるモノが増えるわね」

伝票をチェックしながら藤井さんが言う。

その時。

渉外担当者の澤田さんがこちらに向かってきた。

「あ、いたいた。
藤井さん、桔梗さんは?」

「今日は午後から東京出張、帰社は明日です」

作業の手を止めずに伝える藤井さん。

「さすが、莉歩ちゃん。
桔梗さんの秘書みたい」

休憩が終わって戻ってきた金子さんが藤井さんをからかう。

「ええっ、勘弁してください。
絶対嫌です!
見てくださいよ、これっ。
この指示書っ。
明日までに仕上げといてって今朝置いていったんですよっ。
瀬尾さんを探して絶対、告げ口してやります!」

「……いつも大変ねぇ、莉歩ちゃん。
手伝うわ。
そういえば、瀬尾さんは、さっき食堂にいたわよ」

瀬尾さん、と聞いてトクン、と私の鼓動がジャンプする。

「あれ?
お昼休憩ですか?
じゃあ戻られたら告げ口しますっ!」

怒りがおさまらない様子の藤井さん。

そんな藤井さんに金子さんは楽しそうに話しかける。




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