イジワル上司に甘く捕獲されました
「そうよねえ。
私もお弁当作り、昨晩の残り物とはいっても面倒だもの」

やっぱり彼女よね、どんな人かしら、と楽しそうに話している二人の声が頭に響く。

瀬尾さんの自宅キッチンには入ったことがある。

確かに普段料理をあまりしない人のキッチンだった。

……だけど、お鍋や調理に必要なものは一通り揃っていた。

……お弁当の話なんて瀬尾さんから聞いたことはない。

私に話す必要はないのだろうけれど。

でも。

瀬尾さんは彼女はいない、と言っていた。

彼女にはまだなっていなくて……だけど瀬尾さんの自宅でお弁当を作る女性がいるってこと?

それはつまり。

自宅を内緒にしている瀬尾さんの自宅に訪れて、朝から料理をしてくれる女性。

……瀬尾さんの好きな人?

その答えに思い至った私は。

口の中がカラカラに乾いて。

胸が苦しい。

「ちょっ、ちょっと橘さん?
大丈夫?
顔色が悪いわよ?
医務室に行く?」

「……え?」

藤井さんの心配そうな声に我に返って。

「あら、本当っ。
美羽ちゃん、ちょっと医務室に行って休んできたら?
莉歩ちゃんの伝票は私が手伝うし、無理をしない方がいいわ」

「あ、いえ。
大丈夫です……」

「ダメよ、橘さん。
無理して倒れたら大変よ。
先輩命令よ、休んできなさい。
医務室が行きにくかったらロッカールームでもいいから」



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