ニセモノ*短編
「…え?」

「今の吉野さん見てられないです。」


彼はふっと俯いてそう呟いた。


「でも…私、」

「吉野さんが…前の人を忘れられてなくてもいいですよ。」


真剣な瞳と可愛い顔
自分が落ち込んでいたのも相まって。


「それでも…いいなら。」


了承してしまった。
でももう深入りはしない。
智に置いていかれたときに決めたの。

いつか別れが来るなら

深入りなんてしても傷つくだけだもの。


「…んふふ。嬉しいな。」


にっこり笑うと私をぎゅっと優しく抱き締めてくれた。

伊藤くんの腕の中で
智はいつも背中から抱きついて来るだけだったな、なんて
そんなことを思い出して
また少し泣きそうになってしまった私は、最低だ。
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