【完】強引なイケメンに、なぜか独り占めされています。




「ほーら、絶対似合うわよー!ニーナに着てほしいのよねぇ」


「……この浴衣、私に?」



ニッコリと笑って私を見つめるお母さん。

そのためにお直しに出してくれたんだろうけど。

でも、この浴衣を着てほしいって……



「……今年は、夏祭りに行ってみたら?」



毎年、夏が来る度に、町内の回覧板で河川敷の夏祭りのお知らせが一緒に回ってくる。


それを嬉しそうに教えてくれたお母さん。

だけど、私は一度だって行かなかった。


お父さんとの大切な思い出の場所に行く勇気が、私にはなかったから……。


夏がやってきても、弱くて、逃げてばかり。


いつになっても前を向けない。



「夏祭りは、ひーちゃん達と行こうって話になってて、だけど……」


「あら、そうなの?じゃあ、秋十くんも来るの?」



お母さんの表情がパァッと明るくなる。



「い、いや、それは、まだわかんないんだ……」



本当に、お母さんにとって、未だ色褪せぬヒーローのままなんだなぁ。



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