【完】強引なイケメンに、なぜか独り占めされています。
「俺は嫌じゃないよ。お前の声が聞けるから」
「っ、」
耳を疑う私に、もう一度、今度は微かに瞳を緩ませて微笑する。
私の声が聞ける………?
そんな桐生秋十の柔らかな表情を私は初めて目にしたから、驚きすぎてしまって声も出ない。
いつだって、睨んでいるような瞳が、ふわりと優しさを灯しているんだ。
「それ、からかってるつもり……?」
今の笑みは、なに……?
心臓の辺りがざわざわと揺れる。
なんか、上手く言葉に出来ない……。
「からかってない」
だって、そんなこと言うはずがないし、これまでだって口を開けば意地悪ばかり。
これじゃ今までの大魔王らしくないよ……。
だから、早く………。
早く、私の大嫌いな意地悪な笑みで「なーんてな」って言ってよ。
そしたら私も、きっといつも通りに出来る。
ぐるぐる考えている私とは裏腹に、桐生秋十はあっさりと答えると、前を向いた。
結局、私はそれ以上何も言えなかったのだった。