断罪アリス
「彼に触らないでくれるかな?」
アリスさんの冷たい声が彼女の手を止めた。
アリスさんは俺の後ろから現れると、彼女の方を睨み付ける。
「……今のお母さんの顔、研究者の顔してるよ。彼に研究の手伝いはさせないから」
「……アリス、相変わらず私達がやっていることが気に入らないようね。でも、跡継ぎは跡継ぎ。気に入らなくても引き継ぐのよ」
母親の言葉に、アリスさんは奥歯を噛み締めたのかギリリという音がした。
不穏な空気が二人を包む。
すると、それを払拭するかのような能天気な声が壊した。
「まあまあ、三月さん。めでたい場で話すことでもないし、私達は紗良さん達のところに行こう」
能天気な声の主、智さんはのほほーんとした顔でアリスさんのお母さんの背中を押した。
彼女もそんな智さんに苦笑いを浮かべながらも背中を押されるがまま、歩き出そうとしていた。
「そうやって言っていられるのも今のうちよ、アリス。良い?終わらせようとしないから終わらないんじゃない、終わらせられないから終わらないのよ」
意味深な言葉を残して、彼女達は去って行った。
俺には分からなかったけど、アリスさんは分かったのだろうか?
隣に立つアリスさんに視線を移すと、やはり彼女は意味が分かったようで険しい顔をしていた。
「アリスさん?」
声をかければアリスさんは険しい表情を解いて、俺を見上げてきた。
「何でもない。それより、もう帰ろうか」
突然の彼女の提案に驚いたけど、俺が素直に頷いた。
何故なら、俺に好奇の眼差しが向けられていたから──。