Spice‼︎
暫く沈黙が続いた。

「行かないでとは言ってくれないんだな。」

ヒロはそう言って電話を切った。

梨花はどうしていいかわからなかった。

正直、ヒロを誰かに取られたくない気持ちはある。

それにヒロが居なくなったらまた1人になって
きっと寂しくて桐原を許してしまうだろう。

風間とやり直してしまうかもしれない。

でも自分の為にヒロを縛りつけることは出来なかった。

結局、ヒロは希の部屋を訪れた。

「来てくれたんだね。」

希は嬉しそうに笑う。

この笑顔が好きだったのに…
気持ちはなぜか晴れない。

希の部屋はまだ何も無くて
接続出来てないテレビがそのまま置いてあった。

「これ…やろうか?」

「あ、助かる!ワケわかんなくて困ってたの。

私って1人じゃつくづく何にも出来ないんだなって思って…。」

ヒロは1人になって寂しそうな希が梨花と重なった。

「ヒロ…あの子と別れてここに来てくれない?」

希が突然そう言ってヒロを背中から抱きしめる。

ヒロはそれに答えずに配線を黙って繋げた。

「ヒロ…お願い。戻ってきて。

ヒロしかいないの。」

希を抱きしめそうになった。

だけど今の梨花を1人に出来なかった。

「ゴメン…。今はそんな気持ちになれない。」

ヒロは配線を繋げると
お茶も飲まずに希の部屋を出た。

そして走って梨花のいる部屋に帰った。

梨花は無防備な姿でソファーで眠っていた。

お酒の缶やボトルがテーブルの上に転がっていて
涙の跡が残っている。

ヒロはそんな梨花をやっぱり放っておけないと思った。






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