Spice‼︎
梨花をベッドに残してバスルームに向かう桐原の後ろ姿を梨花は黙って見送った。

そして二人の体液の混ざった下着を脱いで
梨花もバスルームに向かう。

扉を開けると信じられないような光景が飛び込んで来た。

桐原がシャワーを浴びながら泣いているとわかったからだ。

その姿は梨花の知る桐原とはかけ離れていた。

あの堂々とした自信満々のいつもの桐原はどこにも見当たらなかった。

桐原は夢を諦め、これから全てを失う。

そして最愛の梨花も去って行く。

梨花を出世のために利用し、深く傷つけてしまった自分を恨んだ所でもう取り返しがつかなかった。

梨花が近づいて桐原を後ろから抱きしめる。

「ごめんなさい。」

まだ何も言ってないのに梨花は桐原に謝った。

目を赤くした桐原が梨花を抱き寄せる。

「俺に飽きたか?」

梨花は首を振って、桐原の胸に頰を寄せた。

「私…桐原部長を愛し過ぎました。

だから…苦しいの。

苦しくて…堪らないから…離れるんです。」

桐原は梨花をぎゅっと抱きしめた。

「お前がいなくなっても…離婚して…会社は辞めるよ。

もうあそこには俺の居場所はない。

梨花…俺もお前を愛し過ぎてしまった。

だから待っててもいいか?」

梨花はそれには答えずに
ただ桐原にキスをした。

その夜、桐原は梨花を家まで送ってくれた。

別れ難くて、繋いだ手をいつまでも離せなくて
梨花の家の前で何分も手を繋いだまま見つめ合って何度もキスをした。

そして最後に桐原が言った。

「じゃあ、行くよ。

梨花…今まで済まなかった。

またいつか…な。」

梨花も最後までさよならとは言えなかった。

ただ桐原にキスをして
そして桐原と繋いだ手を離した。
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