Spice‼︎
新しい上司となった多村課長は
38歳でバツイチである。

前の奥さんとは去年離婚していた。

「藤城さんの評判は聞いてます。

仕事がとても出来るそうですね?」

多村は執拗にお酒をすすめてくる。

梨花は何となくマズい気がしていた。

多村の梨花を見る目がただの部下を見ている目では無い事はわかってる。

明らかに自分を女として、性の対象として見ている。

梨花はトイレに行くふりをして風間に電話をかけたが、
風間は電話に出なかった。

トイレで少し休んで席に戻る時に
空いているほかの席に座って多村の隣に戻らなかった。

しかし多村は梨花を逃すまいと
梨花の隣に座っていた社員を退かしてその席に腰を下ろした。

そして事もあろうに梨花の膝に手を置いたのだ。

梨花は多村のセクハラに腹が立って
一発殴ってやろうかと思ったが
その時、梨花の電話が鳴った。

「はい。」

「梨花?」

先ほど不在着信だった風間かと思って電話に出ると
なんとその声は桐原だった。

「やっと出たな。」

梨花は電話の声が良く聞こえないフリをして
多村の手を退かして席を立った。

「まだ外か?騒がしいな。」

「桐原さん、迎えに来てもらえませんか?」

「うん、いいよ。

どうした?何かあるのか?」

「ここは会社の前の焼き肉屋です。

わかりますよね?

すぐに来てもらえますか?」

桐原は梨花が困った状態にあるのに気が付いている。

「行ったら見返りはあるのか?」

梨花はしばらく黙っていたが

「…はい。」

と返事をした。

「わかった。」

桐原はそれだけ言うと電話を切った。



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