Spice‼︎
初めて入る社長室はさすがに敷居が高かった。

重厚なドアが開くと大きな窓を背にして存在感たっぷりな社長がどっしりと座っていた。

「おはようございます。

海外事業部の土方と藤城です。」

「おはようございます。」

梨花は続けて挨拶をした。

社長は梨花を上から下まで見て、立ち上がると

「かけなさい。」

と革張りのソファーに座るように勧められた。

「藤城梨花さん、ここにいる土方くんと結婚するそうだね。」

「はい。」

そう答えたのは土方だった。

「君は黙ってなさい。

藤城さん、結婚しますね?」

梨花は真っ直ぐに社長の目を見て答えた。

「結婚はしません。

この先、誰ともする気はありません。」

社長は少しびっくりしていた。

梨花が風間に近づいたのは財閥に嫁ぎたいという浅はかな夢を持ってるからだと思っていた。

「誰とも…ですか?」

「はい。この会社で定年まで働く覚悟でいます。」

しかし社長は息子の邪魔をする者は排除すべきだと思ってる。

「大変優秀だそうだね。

ですが…

残念なことだと思いますが…
あなたには他の会社を紹介します。

給料も今以上になるような場所を紹介しますので
そこに移ってもらえませんか?

あぁ、返事は結構。

移ってもらうしか選択はありませんので。」

大企業の社長の前では自分は呆気なく潰されてしまうまるで虫けら同然だった。

社長室を出るといきなり土方に怒られた。

「だから言ったろ?何で言うこと聞かなかったんだ!」

「だからってやっぱり涼とは結婚出来ない。」

「梨花…お前本気なのか?
アイツの為ならどうなってもいいのかよ?」

「うん。もうどうなってもいい。」

そして梨花は辞表を出し、
その日のうちにデスクを片付けて去っていった。




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