Spice‼︎
土方には桐原が以前の勢いを無くしたことが納得できなかった。

「自分が帰って来る頃には桐原さんは部長くらいになってると思ってました。」

仕事も出来て部下からの信頼も厚い。

ましてや専務の娘婿だ。

どんなに仕事ができる土方でさえ、桐原には絶対に敵わないと思っていたからだ。

「まぁ、色々あってな。

つまんない欲なんか出して、このザマだよ。」

専務の娘と結婚すれば社長も夢ではなかったハズだった。

「専務とはうまく行ってないんですか?」

出世の妨げになるとしたら
上からの圧力以外考えられない。

ましてや専務の後ろ盾があれば当然圧力をかける上司は限られる。

社長か、専務自身しか考えられなかった。

味方になるハズだった専務は
今の桐原にとって目の上のたんこぶだった。

「あの人に付いたらいずれ俺が潰れる。

だからあの人とは距離を置いてる。

それが気に入らないんだろう。

でも今のうちだよ。

そのうち立場が逆転する。」

不思議とその言葉に桐原の自信みたいなモノを感じて
土方は安心した。

桐原は憧れで土方の目標だった。

「桐原さんなら多分やるでしょうね。」

「俺が社長になったら、お前だけは敵に回したくないなぁ。」

桐原は冗談だと笑ったが
土方はいつか本当に桐原が社長になる気がした。

「でも風間って社長の息子が居ますよね?」

「あぁ。例の藤城さんをクビにした男な。」

桐原はまるで聞いてきた噂を確かめるように聞いた。

「藤城さんはお前と結婚するんじゃなかったのか?」

土方は顔を強張らせ、黙り込んだ。

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