Spice‼︎
ヒロはあまりに無口で
梨花は余計に緊張した。

「あの…トイレ借りても良いですか?」

やっと発した一言がこれだ。

「あ、うん。…そこのドア。」

梨花は立ってトイレのドアを指差す。

ヒロも立ち上がって梨花に並んだ。

「あそこですね?」

「背、前から高いと思ってたけど…かなり高いよね?
私もそれほど低い方じゃないけど…」

いつもはあまり気にしなかったが
自分がヒロの肩くらいしかなくてその長身にビックリする。

「実は188センチあります。」

「高っ!何かスポーツやってた?」

「高校の時、バレーやってたんです。」

そしてヒロはトイレに入って少し緊張をほぐすように深呼吸する。

トイレの壁を見ると
仕事の予定が書いてあるカレンダーが貼ってある。

ヒロは梨花が仕事で頑張って
疲れて飲みに来る姿を思い出した。

そこまで頑張ってた仕事を無くした梨花の寂しさを思うと切なくなった。

トイレから戻ると

「梨花さんてやっぱりカッコいいですね。」

と微笑む。

梨花はワケがわからなくて
トイレに何があるか考えてみる。

「トイレも殺風景ってこと?」

「いえ、お仕事頑張ってたんだなぁって。」

ふと梨花は自分が失った仕事の事を思い出した。

「でもね、男でクビになったの。
女でクビになる男はたまにいるけど…
男でクビになる女もいるんだよね。」

ヒロは寂しそうに言う梨花をいきなり抱きしめた。

「何にもしないで帰るって言わなかった?」

梨花がそう言うとヒロは何にも言わずにキスしてくる。

梨花は黙ってそれを受け止めた。

「ホントに何にもしないで帰ると思いました?」

梨花はただヒロを見つめて答えなかった。

「わかってましたよね?」

「ううん。ヒロくんを信じてた。」

「嘘ばっかり。」

そしてヒロは色っぽく微笑むともう一度キスをした。
< 97 / 265 >

この作品をシェア

pagetop