黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

同行してきた宰相エルメーテがドアを開け、手のひらを差し出す。
繊細なレースの手袋と黒い外套をまとったフィリーが、馬車を降りて姿を見せた。

兵士たちの間に緊張が走り、誰もが王女の罪深さと美しさに釘づけになる。

別の馬車に乗っていたカミラが駆け寄ってきて、憎悪の目から守るようにフィリーの腕をとった。
ギルバートは何度か説得を試みたが、カミラは最後までついてくると言って譲らなかった。

フィリーが護衛の兵士に囲まれ、町の人々の罵声を浴びながら砦へ向かってくる。

明日には敵に戻る女だ。
今頃、婚約者の近衛師団がブロムダール女伯の屋敷へ到着しているだろう。

フリムランに留まれば、この先ずっと国民の嫌忌に耐えなくてはならない。
王位の継承問題に関わるフィリーをミネットが野放しにするはずもなく、いつも恨みと執念に怯えて暮らすことになる。

ミネットへ戻れば、国を掌握する男の義娘となり、いずれは王妃に迎えられる。

もともと由緒ある王家に生まれた娘だ。
たとえ両国が戦争状態になかったとしても、ギルバートには似合わないほど高位の女だった。

フィリーの婚約者はランピーニ侯爵の脅威に対処すると約束したし、そばにいられなくても、ギルバートが手をまわすことはできる。

王女が無事に帰国し、ミネットとの交渉の通りドレバス卿の密通に関する調査を進めれば、王の忠臣であるランピーニ侯爵を糾弾するだけの証拠が揃うかもしれない。
そうなれば、フィリーはより安全だ。

完璧に正しいことをしている。
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