黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

それでも時々、離れたところからギルバートを見つけた。
近くにいればいつもわかる。

氷の色の目に見つめられるたび、フィリーは何度も思い知らされる。
これ以上、誰かを好きになることは二度とない。

ギルバートが悪態を吐いて身体を離した。

「なあフィリー、きみは後悔することになる」

掴まれた肩が痛むほど手に力が入っている。

フィリーが思わず顔をしかめると、ギルバートは怯んだように飛び退いた。
苛立たしげに黒い髪を梳く。

フィリーはギルバートに近づき、腕に触れて背伸びをした。

後悔することに意味なんてない。

ギルバートは王家の危険に巻き込まれることなく、ミネットから遠ざかり、いつの日か復讐の呪いに打ち勝ち、なにもかも過去になって、ほかの男と結婚したフィリーを忘れる。

大事なのはそれだけだ。
なぜ、地獄でのことを心配する必要があるの。

フィリーは妖精のホクロをもつギルバートの左頬にキスをした。

「あなたは後悔する?」

ギルバートがフィリーを抱き上げ、窓のそばにある狭いベッドへ連れていった。
膝に乗せたフィリーにすばやくキスをする。

シーツの上に押し倒されたとき、フィリーはほっとして目を閉じた。

本当は不安だった。
はしたない誘いを拒絶されるかもしれないし、冷静に説き伏せられ、自室へ追い返されるかもしれなかったから。

ギルバートは正気じゃないのだろう。
でもやめないでほしい。
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