黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フィリーはムッとして顔を赤くする。
カミラのおかげで少し太ったのは事実だけど、ドレスの上から触ってわかるほどの違いがあるはずはない。
「それはきっと猫だったのよ」
ギルバートはフィリーの憤慨を気にも留めなかった。
長い指が胸までたどり着くと、肌の下が震えて熱くなり、喉の奥から小さな悲鳴になってこぼれでる。
フィリーは慌てて口を閉じた。
氷の目が危なげに翳る。
ギルバートが柔らかさを確かめるように胸を握り、裾に手を入れて太腿に触れた。
そのままシュミーズを脱がされ、素肌がぴったりと重なると、息が上がって頭が変になってくる。
まるで朝なんてこないかのように、ギルバートは時間をかけて、大きな手と低く掠れた声、もしくは口で、フィリーに消えない痕を残した。
堪えきれない吐息をキスが塞ぐ。
ギルバートが脚の間に入ってきて、背中を強く抱き寄せた。
これが永遠ならよかったのに。
フィリーは広い肩に爪を立て、ギルバートがいつまでもこの夜を憶えていればいいと思った。
「好きだったの、ギルバート」
ふたりが罪を犯している間中、フィリーは譫言のように繰り返した。
「好きだったの」
どうかこの夜に閉じ込めて。
涙が溜まった目の端に、ギルバートが口づけをする。
「わかってる」
やがて満月に見放され、退屈な朝焼けが国境を染めるまで、フィリーはギルバートの腕の中で小さく丸くなってじっとそのときを待っていた。