黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
21.
朝がくると、窓の外では雪が降っていた。
カミラがぐずぐずと鼻を啜りながら、フィリーの着替えを手伝う。
準備が整う頃には目の下が真っ赤になってしまっていたので、フィリーは思わず眉を下げて微笑んだ。
「そんなに泣かないで、カミラ」
「申し訳ありません。でも、フィリー様がミネットへ戻られてからのことを思うと、本当に心配で」
カミラがまた顔を覆って泣き出す。
「どうしてもほかに方法はないのですか。閣下は絶対にフィリー様のことを守ってくださいます。今更ミネットなど恐ろしいものですか。キールにこもって暮らせばいいのです。フリムランに残ることはできないのですか」
フィリーはカミラと並んでソファに座り、たおやかな手を握った。
いつか必ず、カミラに幸せが訪れますように。
「私がギルバートを守りたいの。彼はもう戦いを終えたのよ。きっとあなたたちが、ギルバートを戦場から連れ戻してくれると信じているわ」
カミラがハシバミ色の目いっぱいの涙を堪え、フィリーをじっと見つめ返す。
「いつもフィリー様のために祈ります。どうかお元気でいらしてください」
日が高く昇る頃になって、オスカーが迎えにきた。
気難しい顔で深々と頭を垂れる。
「お迎えに上がりました、フェリシティ王女殿下」
いつもの気楽さは鳴りを潜め、かしこまって手のひらを差し出す。
フィリーはオスカーの手を取り、感謝を込めて囁いた。
「私を助けてくれてありがとう。もし許されるのなら、あなたを初めての友人と思うことにしてもいいですか」
オスカーがつらそうに眉を歪める。
フィリーの足もとに跪き、まるで王女に忠誠を誓う騎士のように、手袋をした指先に唇を寄せた。