黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
オスカーが率直に切り出した。
「その子を襲わせたのはランピーニのくそ野郎だ。あの男たちは金で買われたゴロツキだが、証拠はあがらないだろうな」
フェリシティは目を見張った。
ランピーニ侯爵はミネット国王の腹心だ。
金をつかって男たちを雇い、フェリシティを蹂躙し、命を奪うつもりだった。
それほどまで、あの国は彼女を亡き者にしようとする。
フェリシティが震える手のひらを握りしめるのを、黒髪の男がじっと見つめていた。
「ランピーニ卿と対立する貴族に失踪した娘がいるか調べてみたけど、どのご令嬢も宮殿か領地でのんびりしていた。ただ、ミネットの奴らが口を揃えて言うのは」
オスカーの陽気な話し方に、微かな軽蔑が滲んでいる。
「王太子が結婚式の準備を進めているらしい。それで、産声を上げた十七年前からブロムダール城に監禁している王女を、ようやく宮殿へ連れてくると。反対派も多い婚姻で相当慎重になっているはずだろうから、噂話に過ぎないが」
フェリシティは唇を噛んで俯いていた。
オスカーが祈るように囁く。
「この子が森の妖精ならいいのにと思ったよ。それ以外、戦いを回避する道はない」
フェリシティはパッと顔を上げた。