黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

27.

黒旗騎士団は国境の南側に連なる険しい山を越え、鬱蒼と広がる森を抜け、夜霧に紛れてミネットの領土に足を踏み入れた。

任務は敵国の王女を盗むこと。
条件は彼女自身との合意、そして全員が無事に帰還すること。

朝になったら麓にある町へ下りて外国から来た隊商のふりをし、王都を目指す計画だった。

斥候に出ていたオスカーが深刻な顔で沢へ引き返してくる。

ギルバートは注意深く周囲の気配を探り直した。
そばに敵が潜んでいる様子はない。

ハーヴェイが声をひそめる。

「なにがあった」

オスカーは眉を寄せて首を振った。

「理由まではわからなかった。でも、麓の町に王太子の近衛師団がいる」

ハーヴェイが盛大に鼻を鳴らす。

「近衛師団だと? このくそ忙しいときでなけりゃ、ギルを寝込ませたことを褒めてやりたかったな」

「王太子はなんのために国境の町へ来たと思う? フィリーをどこへやったんだろう。せめてあの子の居場所が掴めていればよかったのに」

オスカーが焦りを滲ませ、栗色の髪を乱暴にかき混ぜる。

数日前まで、マリウスはフィリーと婚約していた。
花嫁がすり替わった経緯も、近衛師団が引き返してきた理由も、フィリーの居場所も、なにもかもマリウス本人が知っているだろう。
< 134 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop