黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートは黒馬を近くの木につないだ。
「敵は何人だ?」
「多く見積もって十五人。奴らも人目を避けているみたいだった」
オスカーとハーヴェイのほかに、三人の騎士に声をかける。
接近戦を好む顔ぶれだった。
「六人で十分だろう。本人に聞こう」
ギルバートたちは沢を登り、木々の隙間からじっと麓の町を見張った。
なるべく騒ぎを起こさずに事を済ませたい。
東の空にひっそりと白い光が差し込む頃、ねずみ色の外套をまとった男たちが静かに町を出てきた。
人目を忍び、小径を登って林の中へ入ってくる。
ギルバートたちは目配せをし、道が狭まった先にある岩石の辺りに散らばって待ち伏せた。
息を潜め、敵の数を確かめる。
十二人だ。
ふたり制圧すれば方がつく。
ギルバートは隊列の半ばにいるダークブロンドの髪の王太子と、その背中を守る体格のいい男に狙いを定めた。
フィリーを突き飛ばし、頬を殴った男だ。
背中の左側に空いた穴にも礼をしなくてはならない。
全員が黒旗騎士団の有効射程に入った途端、ギルバートは音もなく木々の隙間を飛び出し、露頭を駆け下りた。