黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

金の装飾が施された濃紺の制服は、端正な顔立ちをした栗色の髪の騎士には誂えたようにぴったりだ。

ミネット人になりすますくらいなら喜んで全裸になるようなふたりが、ギルバートをひとりで行かせまいと、文句を言いながらうしろをついてくる。

マリウスは幾何学模様のトピアリーの庭園を抜け、伯爵邸のドアを叩いた。
上品な石灰色の屋敷は息を止めたように静かで、王太子の到着に迎えもない。

遠く聞こえる波の音を三十まで数えた頃、ようやくひっそりとドアが開かれ、中からミネット兵が顔を覗かせた。

薄く開いた隙間にマリウスが片脚を滑り込ませる。

「通してもらおう。父と話をしにきた」

ギルバートはマリウスに続いて強引に玄関へ押し入った。

シャンデリアが吊るされた吹き抜けのエントランスにも人影はない。
田舎らしい古風な造りで、肖像画や彫刻は見当たらず、手入れの行き届いた暖炉の上には花蘇芳のタペストリーが掛けられている。

マリウスは右手にある大階段を上り、迷うことなく廊下を突き進んで、一番奥の部屋のドアを開けた。

誰かの息をのむ音が聞こえる。
ギルバートは制帽を目深に直した。

ドレスを着た女が両手を背中で縛られ、暖炉の前に膝をつかされている。
緩くカールするプラチナブロンドの髪と、ツンとした鼻筋の美しい横顔がフィリーに似ていた。

フィリーの伯母で、ブロムダール女伯のヴァイオレットだ。
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