黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

奥の一角には、おそらく屋敷中の使用人が集められている。
そばには抜き身の剣を持った兵士たちがいて、全員の行動を見張っていた。

屋敷の裏手に面した広い部屋の窓からは、湖の上に浮かぶブロムダール城が見えた。

焼けるような夕日の差し込む窓辺に立った男が、波の寄せる城を眺めている。

「陛下、お聞きしたいことがあります」

マリウスが兵士たちに制止されるギリギリまで近寄ると、男はゆっくりと振り返った。

ミネット王家の男にふさわしい、鋭い藍色の目をしている。
尖った高い鼻と四角い顎がひどく気難しそうで、口の端には深いシワが刻まれているものの、元の形はマリウスとよく似ていた。

「僕の婚約者はどこですか。数日前から行方がわからないのです」

王は目を細めて息子を見返した。

「アナスタシア嬢なら宮殿で婚礼の衣装選びでもしているんじゃないか」

マリウスが首を振る。

「十七年間ずっと僕の婚約者だったフェリシティのことです、陛下。ランピーニ侯爵令嬢との婚姻をお望みなら喜んで従いましょう。旧王家の女は愛妾にでもします。なぜ僕からフェリシティを取り上げたのですか」

ギルバートは制帽の下からマリウスの背中を冷ややかに見た。
フィリーを取り戻したら真っ先にその口を塞いでやるから覚悟しておけ。

マルジオが肩を竦め、窓の外を眺める。

寄せては返す波が朔の夜に呼びかけ、海の上に取り残された城を彼方へ押し流していく。
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