黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
幾何学模様の庭園を突っ切り、伯爵邸の裏手に広がる湖へ向かう。
プルガドール湖は刻一刻と満潮に近づき、城と陸をつなぐ石橋のアーチもほとんど湖水に飲み込まれていた。
獅子の紋章を掲げ、黒いマントをまとった騎士の姿に驚き、見張りの兵士たちが慌てて銃を構える。
ギルバートは黒旗騎士団の援護を受けながら、ミネット兵を薙ぎ倒し、波の打ち寄せる石橋を一直線に駆け抜けた。
城の入り口で馬を降り、音を立ててドアを開ける。
薄暗い夕闇には明かりもなく、石造りの城はひんやりと冷たかった。
「フィリー! どこにいる!」
ギルバートは大きな声で叫び、自分が来たことを伝えながら、時折背後から斬りかかってくる敵を蹴散らし、棚を避け、机を転がし、絨毯を引き剥がして、城中を探し回った。
最上階にあった王女の私室はとくに丁寧に調べたが、捕らえられていた痕跡はなかった。
黒旗騎士団と近衛師団とミネット軍が追いかけてきて、敵味方が入り乱れる戦いの中、ギルバートだけはフィリーの名前を呼び続け、すべての部屋のドアを開けた。
石橋を渡ってきた使用人たちに案内され、灯りを持って地下牢まで捜索した。
これ以上は探す場所も見当たらない。
その頃にはほとんどのミネット兵が縄で縛られ、城は完璧に制圧されていた。
使用人たちは兵士に詰め寄り、王女の居場所を聞き出そうとしているが、フィリーがブロムダール城の中のどこにいるのか、誰も知らないらしかった。
見張りのミネット兵たちはギルバートを止めようとするばかりで王女を隠す素振りがなかったのだから、嘘ではないだろう。