黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートが荒らし尽くした食糧庫を見てきたマリウスが、険しい顔で首を振った。
「屋敷に戻ってきみが顎を砕いた王の口を割らせるしかない。今ならまだ橋を引き返せる。今夜は新月だ、汐が満ちて橋が沈めばここから出るのは容易じゃないぞ」
ギルバートはプルガドール湖の奥に沈む日に目を向けた。
王を問いただしている時間はない。
ギルバートの直感が警告している。
マルジオは落日を待っていた。
日が完全に落ちるまでにフィリーを見つけられなければ、時間切れになる。
拷問にかけたところで、マルジオはあと数分を耐えればいいだけだ。
ギルバートは屋敷へ引き返そうとするマリウスの腕を掴んだ。
「朔の夜に汐が満ちれば橋が沈むと言ったな。たとえば、干潮のときにしか入れない隠し部屋はないのか」
マリウスはしばらく考え込み、台所で王女を探していた使用人を呼びつけた。
白色の交じったブラウンの髪の女は、怯えて唇まで真っ青だった。
「ゾフィ、潮汐が関係するような隠し部屋はないか。きみがフェリシティの世話をしていたよりもっと以前、母親のときに使っていたようなものでもいい」
ゾフィという名の世話役だけが、十七年間ずっとフィリーのそばにいたことを、ギルバートも聞いている。
「いいえ、殿下。この小さな城にそのような隠し部屋は……」