黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ゾフィは周囲を見回し、ふと窓の外に目を留めた。
日の欠片が湖に落ちる。
黄昏時だ。
ゾフィが弾かれたようにギルバートを見た。
「部屋ではありません、洞窟です。大潮になる望月と朔の夜だけ、湖水が流れ込んで水中洞窟になります」
「俺をそこへ連れていってくれ」
ギルバートはゾフィとともに城を出て、裏手の岩場へ走った。
オスカーとハーヴェイ、マリウスたちもうしろを追いかけてくる。
湖に面した石の階段を下り、凍えるような冬の湖水に足首まで浸かりながら砂の上を進むと、岩の隙間に隠れた狭い空洞にたどり着いた。
波が打ち寄せるたび、入り口から水が流れ込んでいる。
ギルバートは背を屈め、暗い洞窟の中に向かって叫んだ。
「フィリー!」
返事をしてくれ。
今すぐに行く。
月のない空が急速に夜を呼び寄せる。
ギルバートが暗闇に足を踏み出したとき、洞窟の奥から微かな囁きが返ってきた。
「ギルバート!」