黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

「俺たちはちょうど、南にある大国ナバで宮廷生活を送りながら訓練を積んでいたんだ。ナバの王立騎士団は優秀だから。俺やギルバートが宰相の指導に悲鳴を上げていた頃、プルガドール湖の戦いでフリムラン軍が大敗し、国の内部にまでミネットの実効支配を許した。それからは、この国にとって最悪の十年だった」

オスカーが堪えきれなくなったように眉をひそめる。
小さく息を吐き出し、こわばった頬がほんの少しやわらぐと、また続きを話してくれた。

「帰国した俺たちは仲間を集め、キール伯爵家の黒い旗の下、ギルバートとともに戦うことを誓った。あいつはちょっと普通じゃないくらい頭がキレて、俺たちの中で一番腕の立つ男だったから。支配された町をひとつひとつ解放し、陛下の後援を受け、ついにミネット軍を国から追い出した」

オスカーは部屋の中をぐるりと見渡した。

「このブライン砦はミネットとの国境付近にあって、十年前まではフリムラン軍の拠点だったんだ。戦いのあとはミネットの実効支配の足場になり、一ヶ月前に黒旗騎士団が取り戻した」

部屋はうっすらと暗くなり、落日の香りを漂わせている。
プルガドール湖には潮が満ち、王女のいなくなった孤城を今も波の上に浮かべているだろう。

浮世から切り離されたフェリシティには、まだなにも現実ではないみたいだった。
両方の手を祈るように握り合わせる。

「どうして、私を助けてくれるのですか」

オスカーたちはミネットを憎んでいる。
ランピーニ侯爵がフェリシティを亡き者にしようとした以上に、ミネットの王女を斬り捨てたいと思っているだろう。

彼らの真実に従うのなら、殺されても仕方がない。
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