黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
けれど、どうやらフェリシティをフリムラン王のもとへ連れていき、正式に婚約者のところへ帰れるよう取り計らってくれるらしい。
オスカーが目の奥を金色に光らせて笑った。
「本当は、俺はきみを見捨てようと言ったんだ。どうせ厄介なことにしかならない。案の定、俺たちが攫ってきたのはミネットの王女で、事態は想像した以上に深刻になった」
フェリシティは胸が痛くなった。
これから起こることを正確に理解できているかはわからないけれど、きっと親切な彼らをひどい状況に巻き込んでしまったのだ。
「陛下は必ず、フリムランの一番有利になる方法をお考えになるだろう。それからギルバートは、きみが一番傷つかない方法を考える」
不安と後悔を滲ませるフェリシティに、オスカーがいたずらっぽいウインクを投げた。
「あいつは、国を背負う緊張と重責のために冷酷であろうとしてるけど、本当は誰よりも優しいんだ。だから俺たちはあいつを見捨てないし、あいつはきみを見捨てられなかった。ミネット兵はギルを悪魔と噂するけど、きみがあいつをせめて怖がらないでいてくれたらと思う」
フェリシティは、プルガドール湖のほとりで手を差し伸べてくれた漆黒の騎士の姿を思い浮かべた。
精悍で、圧倒されるほど美しく、そして、力強い腕はこの十七年のうちのなによりも優しかった。
フェリシティが頷き、ぎこちなく微笑む。
「本当にありがとう。迷惑をかけてごめんなさい」