黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

亜麻色の髪を簡単に結わえ、アルコーブベッドをきれいに整えていると、部屋の外から声がかかった。

「フィリー、目が覚めた?」

オスカーだ。
フィリーは慌ててドレスのシワを伸ばし、ドアを開けて部屋の中へ招いた。

「おはようございます。昨夜はお部屋を貸していただいて、どうもありがとう」

「おはよう。ここはもともと誰も使っていない小部屋だから」

オスカーは今日も黒いシャツを着ていた。

明るい栗色のくせ毛が耳の上でカールしている。
オスカーがアーモンド型の目を優しく細めれば、大抵の女の子は悲しいことを忘れてしまうだろうとフィリーは思った。

オスカーは両腕に黒いものをどっさりと抱えている。

「ところで大きな音がしたみたいだけど、だいじょうぶ? ベッドから落ちたんじゃないかって」

フィリーは頬を赤くした。
寝台のほうへ歩くオスカーを追いかける。

「聞こえていたんですか」

オスカーは陽気に笑って振り返った。

「聞いていたのはギルだ。あいつはずっとこの部屋のドアを守っていた。砦にいる男たちは全員ギルバートに忠誠を誓っているけど、それでもきみを夜中ひとりきりにするのは心配だったんだろう」

オスカーはアルコーブベッドのカーテンを開くと、抱えていたものをシーツの上に広げた。
フィリーを手招きし、隣へ呼ぶ。

「ギルバートが揃えたらしい」

フィリーはベッドを覗き込み、目を丸くした。
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