黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
オスカーが運んできたのは、フリムラン風の黒い衣装だった。
ドレスの胸元は慎ましやかに閉じられていて、ウエストは自然な程度に美しい曲線を描いている。
ゆったりとした折り襞のスカートにパニエは必要なく、歩きやすそうだった。
「そのドレスは破けているし、いかにもミネットらしいからね」
フィリーはびっくりしてオスカーを見上げた。
「まあ、これは私に?」
オスカーが目を見張り、声を上げて笑う。
「きみ以外にこれを着る女の子がいるか? ギルはフィリーのために選んだんだ。だから手袋や帽子の飾りは、きみの目に似た色をしている。あいつがそれに気づいているかどうかは知らないけど」
ドレスも外套も靴もほとんど真っ黒だが、控えめな飾りには深い翠色があしらわれている。
フィリーの頬はまた赤くなっていた。
「さあ、支度をして。王都へ向かうんだ。ギルバートが外できみを待ってる」