黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
5.
王都ルハルドはプルガドール湖のずっと東にあるそうだ。
昼過ぎに川のほとりで休憩したとき、オスカーが教えてくれた。
「この川の先に王都がある。ルハルドは水の都なんだ」
国境の険しい山脈から流れ出る川は、フリムラン領からルハルドを通って東の海へ、ミネット領からプルガドール湖を通って西の海へつながっている。
だからブロムダール城の周りでは潮汐が起こっていた。
フィリーはオスカーにそそのかされるまま、靴を脱いで片脚をふくらはぎまで川に突っ込んだ。
目を丸くしてオスカーを見上げる。
「冷たいわ」
途中、オスカーはフィリーに森の秘密をこっそり打ち明けてくれた。
川の水が冷たいこと、マムの香りが甘いこと、木漏れ日が揺れて眩しいこと。
時々、妖精がいたずらをしていること。
「ギルの左の目の下のホクロは妖精がいたずらでつけたんだ。あれを見た女の子はみんな恋に落ちる」
日が傾き始めた頃、プタウと呼ばれる町に到着した。
獅子の紋章を掲げた黒旗騎士団の来訪を知ると、緑色の屋根の小さな家から次々と人が飛び出してくる。
握手をしたり笑い合ったり、歓迎の声は石畳の広場のあちこちで飛び交った。
オスカーがフィリーの腰を掴み、栗毛の背から降ろしてくれる。
あたりを見回すフィリーの耳元で低く囁いた。
「プタウは四年前までミネットの支配下だった」
フィリーはハッとして帽子のツバを握り、深く被り直した。