黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

騎士たちを迎え入れる町の活気の源は、侵略者の抑圧から解放された喜びにある。
美しい森や、町の人々の笑い声を、かつてミネットは奪い取ってしまった。

オスカーが栗毛から離れると、たちまち人に囲まれる。
彼らが涙を浮かべてオスカーの肩を抱くのを、フィリーは息を潜めて見ていた。

目深にした帽子の下から、静かに町を見渡す。

建物はほとんどが真新しく、略奪の爪痕はうかがえない。
どの家の屋根も、フリムラン王室の象徴である鮮やかなグリーンに染まっていた。

町角には凛とした草花が佇んでいる。
年端もいかない少女たちがそれを摘んで、競ってオスカーに花束を押しつけたのは、フィリーをほんの少しだけ慰めてくれた。

ひときわ大きな人だかりの真ん中にはギルバートがいた。
あまり愛想がいいとはいえないけれど、話に耳を傾け、頷き返している。

フィリーを見つけてくれたあの騎士は、フリムランの英雄なのだ。

気がつけば、フィリーは訳もなくギルバートを見つめていた。

ギルバートがこちらへ向かって歩いてくる。
きっとオスカーになにか話があるのだろう。
フィリーは慌てて目を逸らし、オスカーの腕を引いた。

「どうした、フィリー」

ギルバートが片方の眉を不機嫌そうに吊り上げる。

そのとき、ひまわり色のペチコートを履いた女が人垣をかき分けてフィリーの前に飛び出してきた。

「ギルバート!」

女は勢いよくギルバートの腰に抱きつき、かわいらしく首を傾げて、甘えた眼差しを向ける。

冷やかすような笑い声がドッと広がった。
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