黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

女は溌剌とした花のように美しく、注目を浴びながら微笑んでいる。
日の光を浴びて輝く艶やかなブルネットが眩しかった。

オスカーがおもしろがって囁く。

「あれは宿屋の娘のコルネリアだよ。がんばってギルを誘惑している」

コルネリアがギルバートの胸に頬を寄せると、広場はいっそう盛り上がった。
フィリーは目を丸くする。

ギルバートは歓声が小さくなるのを待って、背中に巻きつく腕を外した。

恰幅のいい女性が追いかけてきて、コルネリアの首根っこを捕まえる。

「こら! そんなふうに馴れ馴れしくしてはいけないと、何度言ったらわかるんだい。閣下のお慈悲がなければあんたはとっくに打ち首だよ!」

「ママ、ギルバートは私に乱暴なことをしないの。いつでもそうよ」

「いつでもあしらわれてるんだよ!」

むくれるコルネリアを叱りつけ、ギルバートに頭を下げる。

「申し訳ございません、キール伯爵閣下。娘の無礼をどうかお許しください。我々に自由を与えてくださった貴方様を慕うばかりに、どれほど尊いお方か理解していないのです」

ギルバートが頷く。

「久しぶりだな。今晩も宿を借りたい」

「もちろんでございます。閣下にはいつもの小部屋をご用意いたします」

ギルバートは首を振り、ちらりとフィリーを見て答えた。

「いや、あの個室は彼女に。俺は広間で構わない」

突然、人々の注目がフィリーに集まった。

みんながたった今気づいたように、フィリーを興味深くじっと見ている。
コルネリアと違って、まだたくさんの人に囲まれることに慣れないフィリーは、ついびっくりしてオスカーの背に隠れてしまう。

宿屋の女主人はオスカーとフィリーを見比べて呟いた。

「あら、まあ。こちらのお嬢様は、ギャロワ卿の、その」

黒旗騎士団が女を連れていることは初めてだったので、つい好奇心に負けたらしい。

「お知り合いですか」

ギルバートがぎゅっと口を引き結ぶ。
オスカーは声を上げて笑い、愉快そうに片目をつぶった。

「残念ながら、俺じゃない。彼女はギルバートの連れなのさ」
< 24 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop