黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「わかっているわ。相手なんてしなくていいの。ただ、私の誘惑のせいにして」
それで、フィリーはなぜかカッとなった。
乱暴な音を立て、勢いよくドアを引く。
ふたりは同時に振り返った。
壁に背を預けたギルバートが、訝しげに眉を上げる。
コルネリアは凹凸のある肢体をぴったりと寄せ、強引に掴んだギルバートの手のひらをやわらかそうな乳房に押し当てていた。
フィリーは頬を赤くする。
暗い廊下で佇むふたりに、淡い月明かりがひっそりと寄り添う。
男女の親密な触れ合いが紡ぐ耽美な夜を、フィリーは引き裂いてしまった。
コルネリアにきつく睨まれ、すぐに部屋の中に戻るべきだと気がつく。
「ごめんなさい」
慌てて目を逸らし、ドアのうしろに隠れた。
「待て」
ギルバートが怒った顔でフィリーを引き留める。
コルネリアの肩を掴んで引き剥がし、警戒して眉を寄せた。
「そこに立って答えろ。どこへ行くつもりだった」
尋問されている。
フィリーは目を泳がせ、恥じらって俯いた。
ギルバートの糾弾に従い、廊下に出てうなだれる。
「あの……あなたの、ところ……」
滅多にないことに、ギルバートは虚をつかれたらしい。
シアンブルーの目を丸くしたかと思うと、不機嫌そうに顔をしかめた。
ずんずん廊下を歩いてくる。
大きな手のひらが戸惑うフィリーの肘を掴んだ。
そのまま身体で押し込むようにしてフィリーを部屋に戻し、内側からドアを閉めてしまった。