黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
廊下でコルネリアが悲鳴を上げ、ドンドンと乱暴にドアを叩く。
「ちょっと、なにをしているの!」
ギルバートは黙ったまま背中を預けてドアを押さえた。
「女の相手はしないんでしょう! そんなみすぼらしい小娘と真夜中の部屋にふたりきりだなんて、あなたにふさわしくない評判を立てられるわよ。今すぐ出てくれば私が潔白の証人になるわ!」
口を閉じて腕を組み、完璧な形をした青い目で訝しげにフィリーを見下ろす。
しばらくするとコルネリアは叫ぶのをやめ、怒りを踏み鳴らして廊下を去っていった。
夜がしんと静まりかえる。
階下で酒を飲み交わす騎士たちでさえ、しじまに潜んで口をつぐむ。
町中が息を凝らしてふたりを見つめていた。
フィリーが長いまつ毛を伏せる。
「その……ごめんなさい。邪魔をするつもりではなかったんです。ここはいつもあなたが借りるお部屋だと聞きました。彼女を呼んできますから、少しお休みに……」
ギルバートの脇をすり抜けようと考えただけで、そうするよりも先にきつく腕を掴まれた。
思わず息を止める。
「俺がお前から目を離すと思うか」
フィリーは慌てて首を振った。
怒らせたいのではない。
強い力に驚いてとっさに身を捩ると、ギルバートはすぐに手を引いた。
フィリーは掴まれた腕をさすりながら、逃げるようにパタパタと寝台へ駆けていく。
「そ、それならベッドを使ってください。私はそこに座って静かにしています」
両手でキルトを剥がし、横になるよう促すと、ギルバートは心底嫌そうに眉を寄せた。
「フリムランの男は、泣いている女からベッドを勧められることを侮辱ととる」