黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フィリーはパッと顔を赤くした。
やっぱり、ギルバートのマントを羽織るのは変なことなのかもしれない。
ベルガモットの香りをまとうマントを肩にかけられたとき、フィリーの頬は熱くなったし、心臓がギュッと痛くなった。
だから、なにかがおかしいことはわかっている。
オスカーにさえ呆れられるほど、世間知らずな振る舞いだったらしい。
みんながわけ知り顔で笑っている。
ギルバートに返すべきだ。
フィリーが眉を下げ、マントの裾を握って身を捩ったとき、咎めるように後ろから肘を掴まれた。
強い力で引かれ、硬い胸にぶつかる。
大きな手のひらが、とっさに逃げようとするフィリーの腰を捕らえた。
フィリーは慌てて首を振る。
「お願い、待って!」
ギルバートはフィリーの懇願を聞き入れなかった。
雲を掴んだように抱き上げ、黒い馬の上に乗せる。
乗馬に慣れないフィリーが力いっぱいしがみつくと、馬は大きく鼻を鳴らした。
ギルバートが手綱を掴み、機嫌をとるように話しかける。
「この娘を落としてくれるなよ、フィル。さっき間に合ったのは偶然だった」
鐙に足をかけ、鞍の上にすばやく跨ると、右腕でフィリーの腰を引き寄せる。
細い背中が男の身体にすっぽりと覆われた。
たしかに、ギルバートのマントを着て、鋼のような筋肉に囲われていれば、随分寒さを凌ぐことができそうだ。
少し熱すぎるくらいに。