黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
城門前広場に集まっているのは、社交シーズンのために王都を訪れている貴族がほとんどだった。
騎士たちにも馴染みの相手が多いようで、馬を降りて足を止め、次々と駆け寄ってくる顔見知りと言葉を交わしている。
恋人を抱擁する者もいた。
広場の出入口近くではオスカーが令嬢たちに囲まれ、ふたりから注意を逸らすことに貢献している。
ギルバートはフィリーの手を握ったまま、内城門へ向かって大股で歩き出した。
国を救った英雄たちを労おうと、誰もが背伸びをして人混みの中央に注目している。
見物客の間をすり抜けるように進みながら、フィリーはこっそり顔を上げた。
フリムラン王家の居城であるラーゲルクランツ城は、古代から王都を守る堅固な石造りの要塞だった。
内城壁の歩廊の中央にはロイヤルグリーンの王家の紋章がはためき、左右の小塔には国王軍と近衛連隊の旗がそれぞれ掲げられている。
見上げるほどの防壁に阻まれ、奥にそびえる城の外観を見渡すことはできない。
全体をもっとよく見たくて、ついフィリーの歩幅は小さくなった。
石畳につまずいて足を縺れさせる。
ギルバートが片手でフィリーの腰を掴み、耳元に低く囁いた。
「よそ見をするな。俺にしがみついてろ」
フィリーが慌ててギルバートの腕を握る。
ギルバートは周囲に怪しまれない程度に歩く速度を上げた。