黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
値踏みをされているのがわかる。
城に幽閉されていた敵国の王女をどう扱うのがフリムランにとって一番有効か、リチャードに確かめられている。
「その共通語をどうやって身につけたのですか」
フィリーは恥ずかしそうに肩を竦めた。
たしかにフィリーは世間知らずだけれど、口も利かぬ人形ではない。
「世話役のゾフィが必要最低限の教育を施してくれました。ほかの使用人はすぐに入れ替わってしまうし、顔を合わせることはほとんどありませんが、年に一度は王太子殿下が訪ねて来られます。それから、煙突掃除屋も」
リチャードがまた少しの間考え込む。
フィリーは喉に詰まった緊張を飲み下そうとした。
「婚約者のもとへ帰りたいとお考えかな」
困惑して眉を寄せる。
「私は、彼のために生きられる約束です」
それ以外に、生きる方法を知らない。
リチャードが何度か頷き、椅子の背にゆっくりと身体を預けた。
「王女殿下のご両親を覚えていますよ。とても聡明な方々だった」
フィリーは目を大きく開いた。
存命中の両親の話を聞くのは生まれて初めてだ。
「まあ! 本当ですか」
リチャードが口の端で微笑む。
「あなたはマーガレット王妃にそっくりだ」
フィリーは胸がいっぱいになった。
今ではミネット中の誰もかも、両親のことを話さない。
フィリーは母の顔さえ知らなかった。