黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
8.
「さて、どうしたものか」
リチャードは窓辺に立ち、カーテンの隙間から国を見下ろした。
ギルバートが膝をついて頭を垂れる。
「申し訳ございません、国王陛下。私の軽率さがこのような事態を引き起こしました。如何ようにも処罰を受ける所存です」
リチャードは片手を振って謝罪を拒否した。
「顔を上げなさい。物は使いようだよ、ギルバート。見方によっては、我々はミネットが世界で一番大切にしてきた女を人質にしている。この拾い物が我々になにをもたらすか、謝罪を受け入れるのは結果を待ってからにしよう」
宰相エルメーテが大きなため息をついた。
「私にはすでに結果が見えるようです。ミネットがまともな交渉に応じるわけがない。骨が折れます」
リチャードが軽やかに笑う。
「それがきみの仕事ではなかったかね、アルコジー侯爵」
ギルバートは新たな戦争の種を拾ったかもしれない。
十年間必死に守ってきた国を自ら危険に晒し、ギルバートを正義の道へ引き寄せた主君に災厄を持ち帰った。
多くの犠牲を払いようやく闘いを終えたところで、また敵に侵略の口実を与えようとしている。
そうとわかっているのに、フィリーが政治の駒となり、これからどのような扱いを受けるかと思うと吐き気がする。
これは良くない傾向だ。
そのせいで、ミネットの揉め事に首を突っ込むことになった。