黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

ドレバス卿が屈辱で顔を真っ赤にする。

「これは大変な侮辱だぞ。必ず貴様を私の前に跪かせてやる」

嫌悪の立ち込める目でギルバートを睨み、唸るように脅しを吐いた後、肩を怒らせて王座の間を退室していった。

舞踏会は一時騒がしくなったが、そのままそれぞれのおしゃべりに戻ったようだ。
ドレバス卿とキール伯爵が犬猿なのは周知らしい。

リチャードが呆れて首を振る。

「少しは大人になったかと思ったが、きみは相変わらずの悪党だな。それとも、人間味を取り戻したと言ったほうが正しいのか」

フィリーは青くなって頭を垂れた。

「申し訳ございません、国王陛下。私のせいで、このような騒ぎに……」

ギルバートが不機嫌そうに顔を顰める。

「きみが謝ることはない」

リチャードも頷いた。

「その通りだ。フィリーのほうが礼儀というものをよくわかっている。ぜひキール伯爵にも指導してやってほしい」

軽やかな音楽が再開し、リチャードが微笑む。

舞踏会が再び煌びやかな優雅さを取り戻したと思ったとき、ギルバートが突然フィリーを抱き寄せた。
抵抗さえ思いつかないような強引な力で肩を掴み、マントの中に押し込む。

どこからかオスカーが駆け寄ってきて、リチャードの背後にいた男に掴みかかった。
オスカーと男は激しいもみ合いになり、男がついに床に引き倒される。

男の手の中から抜き身の短剣が飛び出し、床を滑ってフィリーの足元に止まった。

甲高い悲鳴が上がり、舞踏会は瞬く間に混乱の渦に落ちる。

近衛兵がすぐにリチャードを取り囲んだ。
人々が逃げ惑う騒ぎの中、闖入者から引き離されていく。
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