黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

警備兵に押さえつけられ、捕らえられた男は、連行されながら薄らと笑みを浮かべてフィリーを見た。

ギルバートに支えられていなければ、フィリーは膝から崩れ落ちていただろう。

あの男が狙ったのはフィリーだ。

フィリーの正体を知っている。
暗殺者が舞踏会に現れたのは、ここにミネットの王女がいるからだった。

フィリーの目から止めようもない涙が溢れた。

ミネットが利欲のために壊したものはなんだったか。

美しい森を奪い、プタウの街を支配し、幼いカミラから兄を取り上げ、ギルバートの両親を殺した。

だからフィリーは、ブロムダール城に閉じ込められた災厄だった。
もしも王家の呪いから逃れるようなことがあれば、ミネットはなにを犠牲にしてでもフィリーを連れ戻すか、永遠に死のもとへ監禁する。

このままではきっと侵略が繰り返される。
けれどフィリーにはそれを止める術がない。

一刻も早くミネットへ戻らなくては。

ギルバートが黒いマントでフィリーを頭からすっぽりと覆い隠した。
大きな手で腰を引き寄せ、混乱の中に立ち尽くすフィリーの額に囁く。

「泣くな。すぐに連れ出してやる」

ギルバートに守ってもらうわけにはいかない。
その資格はないとわかっているのに、ギルバートの優しい腕以外、フィリーにはもうなにも残されていなかった。
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