黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
12.
馬車の中、フィリーは顔を覆って泣き続けていた。
どうしてマーガレットは、味方などいない娘をたったひとり残して逝ってしまったのだろう。
フィリーは生きる災厄だった。
混乱と争いと悲しみをもたらす。
ほかにはなにもない。
正統なる王家の血がただ青白い肌の下を流れている。
唯一手を握り返してくれた男からすべてを奪い、復讐へ駆り立てる呪われた血筋が。
なぜ母が一緒に連れていってくれなかったのか、フィリーにはわからなかった。
「なあ、どうしたら泣き止むんだ。きみの死を望む者がいることがそんなにショックだったか」
隣に座るギルバートもうんざりしている。
フィリーは鼻をすすって首を振った。
国が王女の死を待ち望んでいることは、ずっと前から知っている。
「ごめんなさい」
謝罪ばかりを繰り返すフィリーに焦れ、ギルバートが喉の奥で唸った。
もうこれ以上ギルバートを失望させたくない。
だけどなにをどうすればいいのか、フィリーには検討もつかなかった。
「本当にごめんなさい。すぐにこの国を出て行きます」
ギルバートが不機嫌に鼻を鳴らす。
「ああ、好きにしろ。だが俺がそれを許すと思うな」
フィリーは身体を強張らせた。
ギルバートの声は明確な怒気を孕んでいる。
聞き分けのないことを言ってしまった。
出会ったことを誰より後悔しているのはギルバートなのに。