黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フィリーは次第にギルバートから目を逸せなくなり、ついに足を止めた。
口を真一文字に引き結ぶ。
ギルバートもなにも言わなかった。
声に出せば、瞬きをすれば、きっと取り返しのつかないところへ落ちていくことをわかっている。
フィリーは怖くなって目を逸らした。
同時にギルバートの手が顎をすくい上げ、唇が重なる。
音楽は止まり、舞踏室のドアが静かに閉められた。
ギルバートがほんの少しだけ顔を離し、唇の上に囁く。
「なあ、誰がきみにダンスを教えたって?」
フィリーは顔を顰めた。
一度もギルバートの足を踏まなかったことを認めなくてはならない。
「……ギルバート、かも」
「その通りだ、忘れないでくれ」
ギルバートがフィリーの頭を引き寄せ、またキスをした。
冷たい唇を押し当てられると、膝から下が溶け落ちてしまいそうになる。
下唇にそっと歯を立てられ、目眩がいっそうひどくなった。
フィリーは慌てて硬い胸を押しやり距離をとる。
ギルバートは怪訝そうに眉を上げたが、腕ではフィリーを放さなかった。
フィリーは口を尖らせ、ギルバートを見上げる。