黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「なぜあなたが私にキスをするの? 恋人同士がすることだと思っていたわ。でも私たちは恋人じゃない、そうでしょ? 私はミネットの王女で、あなたは敵国の英雄だもの」
ギルバートは笑いを堪えているみたいだった。
「たしかに」
指先で顎を持ち上げ、怒ったフィリーの目を覗き込む。
「だが百年に一度くらいは、敵国の王女にキスをしたくなることもある」
縁の透き通った青い目に見つめられると、フィリーは挑むのを諦めてしまいそうになった。
この抗いようもないほど強くて美しい騎士に恋をすることを、世界は決して許さない。
フィリーには胸の高鳴りが恐ろしかった。
「あなたは私にキスをしたいの?」
「したくないと言ったか?」
肩を落として首を振る。
「でも、だって……なぜ嫌いな相手にキスをするの? ねえ、ニヤニヤしないで。あなたって変だわ。私たち、キスをする理由なんてないのに」
ギルバートはついに声を出して笑った。
フィリーの抵抗がおかしいらしい。
どうしてギルバートは、ただの一度笑っただけで、フィリーをくらくらさせることができるのだろう。
力強い腕が背中を引き寄せた。
フィリーは目を閉じて降伏する。
「きみは間違っているよ、フィリー」
夢から醒めたように、ギルバートのキスは三度目も完璧だった。