黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
第三章 永遠の月夜
13.
ギルバートはラーゲルクランツ城の小塔でオスカーと落ち合った。
今にも空から雨が溢れそうだ。
レースのクラヴァットを巻いて貴族らしい装いをしたオスカーが、ギルバートの顔を見るなり勝ち誇ったようにニヤニヤと笑う。
「顔色がいいな、ギルバート。十年振りだ」
ギルバートの影に隠れるフィリーの手を取り、手袋をした指に唇を寄せた。
「ご機嫌いかがですか、マイ・レディ。俺が慰めに行ったほうがいいかと思ってたんだけど、必要なかったみたいだね」
ギルバートはオスカーの肩を押しやってフィリーから離した。
その才能を知っていて斥候を任せたのはギルバートだが、オスカーの勘の良さは時々憎たらしい。
「証拠は揃ったのか」
オスカーが肩を竦める。
「もちろん。ハーヴェイから調査結果も届いた、全部ギルの言った通りだった」
ギルバートはオスカーと並んで広場を抜け、城の東端に位置する議事会場へ向かった。
左肘に添えられたフィリーの手が強張っている。
舞踏会の騒動のせいで、フィリーは王都中の噂になっていた。
器量がいいだけに、まるで魔女を見るような好奇の視線に晒される。
興味を持つ者、妬む者、平民の出自を訝しむ者、どこの誰であれ、みんながフィリーを見ていた。
それでも魔女ならましなほうだ。
フィリーの正体がミネットの王女だとわかれば、この程度ではすまない。
議場にはすでに緊急招集された多くの貴族と聖職者が集まっていた。
ギルバートとオスカーはフィリーを間に挟んで座席につく。